じぞうさまのけんか

鳥越の田んぼの中に、村の人から太郎助地蔵と呼ばれている左手のない地蔵さまがあります。そこからすぐ近くの町屋には首のない辻堂地蔵さまがあります。
二体の地蔵さまは昔はげしいけんかをしたと、人々の間で言い伝えられていましたが、本当は別のわけがあったのです。
昔、昔のある年の夏、いく日も日照りが続き、わずかばかりの細い水をめぐって水争いがしばしば起きていました。その夜も鳥越の五兵衛が寝ないで太郎助地蔵のかげに身をよせて、水を見張っていました。
いく晩も眠らずにいた五兵衛はついうとうとと眠ってしまいました。
それを見た町屋の佐平は、水のせえぎをはずして町屋の方へ水を流しました。そして、水のわけ口へ板を渡し、笹や草をかぶってその上にかくれていましたが、佐平もやっぱりとろとろと眠ってしまいました。
晴れた夜空に星が輝き、ふくろう鳥がホウホウと鳴きました。
ハッと目ざめた五兵衛は「だいぶ水が入ったかなあ」と思ってみとを見ると、水は町屋の方へ流れているばかりか、大きな草のかたまりがいびきをかいているではありませんか。
五兵衛は、カッと頭に血がのぼり、持っていたくわを草のかたまりめがけてふりおろしました。
その時どこからともなく人影が、くわの下に飛びこみ「ガチッ」と音がしました。
月明かりに見ると、辻堂地蔵さまの首が落ちていました。
目を覚ました佐平は、おどろいて首のない地蔵さまをかづいて町屋の方へ走って行きました。五兵衛も自分のしたことのおそらしさにガタガタふるえて、
「地蔵さま、地蔵さま、どうしましょう。おとましいことをしてしまいました。」「五兵衛や心配するな。おれと辻堂地蔵といさかいしたことにするわいや。人間首切られりゃ命がなくなるけど、仏は首や足なあても命はなくならんわい。おれの片手ちぎっとくさかいなあ、在所のもんにそう言うとくげんぞ。」
五兵衛は涙を流して喜びました。

こうして地蔵さまのいさかいの話が伝わっていったのです。
手のない地蔵さまと首のない地蔵さまは、「いいがいや。人間ひとりの命が助かったし、水のいさかいもなくなったし。」と話し合っておりました。


『絵本 いろり火 其の一 中島町の民話・伝説より』(中島町教育委員会 平成14年発行)より




太郎助地蔵

中島の鳥越(とりごえ)の田んぼの中にある左手のかけたお地蔵さま。









辻堂地蔵 

中島町の町屋(まちや)の道路近くにある首のないお地蔵さま。










お地蔵さまがある周辺の風景 

二体のお地蔵さまがある鳥越地区と町屋地区はとなり同士で、旧中島町の山間部にあります。
その山間部には田んぼが広がっています。