テーマ  地域で生き生きプロジェクト


T 学校の概要

1 概要
 珠洲分校は、地域の保護者や関係者からの強いニーズにより平成17年度4月に珠洲市三崎町本に旧本小学校校舎を利用して開校した。主に能登町と珠洲市を通学区域としており、児童生徒数は、小学部6名、中学部2名、高等部8名、計16名(H19.3.1現在)の小規模校である。通学方法はスクールバスまたは保護者送迎のいずれかであり、全員自宅から毎日通っている。
 
2 本校の目標
珠洲分校は、奥能登地区の特別支援教育の核となることが期待されていることから、地域との関係を密にしながら、地域に根づいた分校づくりをめざしたいと考えている。
(1) 教育目標
 児童生徒のニーズに応じた教育を行い、一人一人の生きる力を伸ばし、適切な支援のもとに社会で主体的に生きていく、明るくて健康で心豊かな人間を育む。
(2) 中・長期目標
@ 児童生徒一人一人のニーズに基づいた「わかる」授業づくり
A 特別支援教育のセンター的機能として、地域における相談機能と研修機能の充実
B 地域と密接につながり、地域に根づいた教育の実践
(3) 今年度の重点目標
@ 部活動の実施
A 地域資源を活用した教育活動の展開
B 早期教育相談の本格的実施
C 少人数を生かしたきめ細やかな指導と全校のつながりを生かした活動の工夫
D 重度・重複障害の児童に関する教材・教具の工夫と指導実践
 
U 平成17年度の取組み
 
 
 珠洲分校に地域の学校から特別支援教育のセンター的な役割が求められることから、その基礎づくりとして、できるところから取り組むことにした。
1 事業の概要
(1) わかる授業づくりを図るために、障害の状況に応じた自作教材・教具を制作し、ライブラリー  として整備する。
(2) 特別支援教育のセンター的役割を果たすために、教育相談体制を整えるとともに、地域に向け  た講演会・研修会を開催する。
(3) 学校行事をとおして地域とのつながりを促進する。
 
2 実践例
(1) 地域を巻き込んだ学校行事
@ 夏祭り「すずの集い」
 学校公開の一環として7月に夏祭り「すずの集い」を行った。地域の方々に案内状を配布しての取組みである。 全校児童生徒によるオープニングセレモニーから始まり、中高等部生徒による太鼓演奏や全校生によるキリコの練り歩きよさこいソーランの演技など、子どもたちは,練習したことを十二分に発揮し,生き生きと活動することができた。地域の方の参加はもちろんだが,育友会,ボランティアの方の協力も得られた。「すずの集い」当日は日中から日差しが強い日であったが、多くの地域の人たち(200名近く)が集まった。このことは、子どもたちにも教職員にも大きな励みとなった。
A 合同運動会
 運動会は、地域とつながるよい機会であることから、隣接する保育所と地域の老人会に声かけし、合同で行うことにした。分校児童生徒たちは幼児の競技に応援したり、老人を含む地域の人たちとゲームをとおして和やかにふれあうことができた。また、学校としても珠洲分校の子どもたちを地域の人たちに知っていただく貴重な機会だった。なお、予行練習から老人会の方々に積極的に参加していただいている。
B 学習発表会
 学習発表会においても、地域との密接なつながりを持つことに力点を置いた。地域の特殊学級に参観の案内を出したり、三崎中学校に「YOSAKOIソーラン」の出演をお願いしたりした。全校生徒による演劇「恋路物語」では、それぞれが個性を発揮できるよう演出し、練習を積んできた。その結果、集まった多くの人たちに感動を与えることができた。学校としても、子どもたちがここまで表現できることを地域の方々に知らせることができた。子どもたちも力一杯表現できたことに満足感をもっていた。
(2) 地域の特別支援教育のセンター的役割
 地域の小・中学校の特殊学級とは、学校行事への招待などを通しての交流を行うことができた。2学期から地域の学齢未満の子どもの教育相談としての早期教育相談を実施した。サテライト教室や地域の保育所および関係機関との連携を図り、19件延べ58名の相談を行った。
 また、外部講師招いた特別支援教育に関する講演会を開催したところ、64名の参加があった。参加者へのアンケートの結果、講演の内容に大いに満足したとの評価が圧倒的であった。
 校内で3回の公開研修会(サポートブックの作り方、LDの心理的疑似体験講習、パネルシアター制作講習)を行った。地域の特殊学級担任や保護者等延べ45名の参加を得ることができた。
 
3 成果と課題
(1) 成果
@ 児童生徒の実態に応じて76点の自作教材・教具を制作できたことは学習効果を高める上で大 いに役に立った。
A 特別支援教育のセンター的役割を担うべく取り組んだ早期教育相談の試行や講演会・公開研修 会の実施は、地域への特別支援教育の理解を高める上で役に立った。
B 学校行事において地域住民や地域の保育所・学校との交流を行うことができ、珠洲分校の存在 を十分アピールすることができた。
(2) 課題
@ 今後も児童生徒のニーズに応じた教材・教具を作り、わかる授業づくりをめざしたい。
A 専門相談や早期教育相談を推し進め地域のニーズに応えていきたい。
B 今後は日常的な教育活動(生活単元学習や作業学習など)で奥能登の地域資源を活用した取組 を行うことにより、さらに地域とのつながりを深めていきたい。
 
V 平成18年度の取組み
 
 
1 目標
 珠洲分校が立地する地域の自然や伝統文化の学習を推し進め、地域の人たちとの交流を深める。
 
2 事業の概要
(1) 地域のプロから学ぶ
  地域の達人を講師に招き、授業を行う。
   ・陶芸家に学ぶ作業学習 10月実施   ・生け垣植林実習 11月実施
   ・郷土料理講習会 1・2月3回実施   ・校内清掃実習 2月実施
(2) 奉仕作業などによる地域とのふれあい
  地域へ積極的に出かけ、奉仕作業を通して地域の一員である自覚を持つ。
   ・珠洲ユニバーサル福祉音楽祭9月   ・柿の収穫と加工の奉仕作業 11月
   ・地域での読み聞かせ活動 2月
(3) 地域での体験学習
  珠洲の地域性のある体験をとおして地域を知り、地域の人たちとの交流を深め、分校とのつながりをつくる。   ・アニマルセラピー体験 11月   ・魚の裁き方体験  12月
 
3 実践例
(1) 地域への奉仕活動など
@ 柿収穫・加工
 昨年度からNPO法人「春風」の理事長より提案のあった柿の収穫と加工の奉仕活動を行っている。作業学習として柿の収穫と加工に取り組んだが、絶好の作業学習の機会となった。生徒たちは一日あたり2時間の作業を2日間行った。約2千個の柿を収穫し、学校で生徒と職員が力を合わせて処理(渋抜き)作業を行った。活動の後に、甘くさわされた柿をいただき、これまでお世話になった地域の人たちに生徒たちが書いた手紙を添えて配った。
A タケノコ掘り
 今年度に入ってまもなく、近くの人から竹林の管理を任せられているが、タケノコがたくさん生えるので、掘りに来てもらえないかとの誘いがあり、作業学習の一環で取り組んだ。生徒たちはタケノコの見つけ方や掘り方を教わり、生き生きとして活動していた。これも実践的な作業学習として大いに効果があった。
B 珠洲ユニバーサル福祉音楽祭
 今年度の一学期末に、珠洲で初めての福祉音楽祭を開くので是非出演してほしいとの依頼があった。2学期に入り、中・高等部で太鼓とよさこい・ソーランの練習に励み出演した。地域に分校の取組を理解してもらうよい機会となり、生徒も自信を持って取り組んでいた。また、会場のラポルトすずに、作品展をしてほしいとの依頼があり、1ヶ月間児童生徒の作品を展示した。
C 地域での読み聞かせ活動
 手人形を使っての読み聞かせ活動を行った。訪問先は老人施設と学校がある本地区集会所及び鈴幼稚園の3カ所である。読み聞かせの活動の後、簡単なゲームをしたり肩たたきをしたりして交流を深めた。来年もまたこのような活動をしてほしいとの声が聞かれた。

(2) 地域のプロに学ぶ活動

@ 生け垣植林作業
 運動場の一角に生け垣を作るという作業学習を計画した。地域の造園業で働いていた人にノウハウを教わり、実習することにした。竹垣の作り方、植木の間隔などを教えてもらい、120本のベニカナメを植林することができた。また果樹の剪定方法を学ぶ講習会を冬に開催した。
A 郷土料理講習会
 学校近隣の人にお願いし、郷土料理の作り方についての講習会を3回開催した。地元でとれるイカの調理法や野菜(カボチャ)からのお菓子の作り方などを学ぶことができた。
 
B 校内清掃実習
 地域の清掃関連の会社から講師を派遣していただき機械を使っての床清掃の仕方を教わった。ワックスの種類や機械の取り扱いなど熱心に学ぶことができた。
 

 

(3) 地域での体験活動

@ アニマルセラピー体験
 

学校から10qのところに乗馬クラブがある。小学部の児童たちはそこを訪れ馬とのふれあいを体験した。これまで動物嫌いであった子どもが馬にえさをあげたり乗馬したりでき、驚きの連続であった。地域のこのような資源を今後とも発掘し、利用していきたい。

 

 
W 成果と課題
1 成果
(1) 相談数の増加
 平成18年度の早期教育相談は100回実施し、専門相談は45回実施している(2月末)。医療機関や保育所、行政機関と円滑に連携を図りながら実施できた。
(2) 地域に根づいた教育の展開
 柿の収穫やタケノコ掘り、珠洲ユニバーサル音楽祭、読み聞かせ活動の事例のように、地域に出かけての活動は珠洲分校の存在が地域に認められた結果と考える。また珠洲ユニバーサル福祉音楽祭でのテレビのインタビューに積極的に応じたり、作品展の作品に名前を公表したりできるようになった。これらのことは、学校外の会場で行われる音楽祭に出演するということで、太鼓やよさこいソーランの練習に実に真剣に取り組んだという自信の現われであったと思われる。
また、日頃の学習活動へ地域の人たちに積極的にかかわっていただくことができた。かかわることで学校や子どもたちの理解が深まったとのアンケート結果が得られた。
 
2 今後の課題
(1) 個別の教育支援計画との関連性
 個別の教育支援計画に裏付けされたニーズによる授業づくりを行う必要がある。
(2) 相談内容の充実
 専門的な研修を全校的にすすめ、教育相談に対応できる人材の育成を図ることで相談内容の充実を図りたい。
(3) 地域へ貢献
 地域との結びつきをさらに強めるため、積極的に地域へ貢献できるような作業学習を考えていきたい。